あなたの犬は「天才」だブライアン・ヘア
ヴァネッサ・ウッズ
あいほんを手に入れてからのここ数年、何が変わったと言ってびっくりするくらい読書量が減っています。
紙に書かれた活字に集中するのに、昔よりずっと労力がいる感じ…。
エンジンがかかるとぐーっと集中出来るんだけど、そこまでいくのがなかなか。
そんなわけでお久しぶりなイヌ本記事なんですけども、この本はタイトルを見て「!?」となり、帯に書かれた言葉を見てノックアウトされました。
曰く、「…たとえ重力の働きがよくわからなくとも」!!
たしかに!
あっとちゃんはとても賢いけれど、重力の働きはよくわからないようだ!
ポロリとこぼれたパンくずがテーブルを透過すると思ってるふしがあるし、コングの転がり方に意表を突かれてるし。
そんな風に興味を惹かれて読み始めたのだったが、久しぶりに活字に引き込まれる感覚を楽しめました!
愛犬とボール投げをして遊んでいるとき。
投げられたボールを見失ってキョロキョロしているイヌに、「あっちだよー」って指差して教えたら、それを見て落ちたボールの方へ向かうよね。
このどこにでもあるシンプルなヒトとイヌのやり取りが、作者のイヌの行動学研究のそもそもの発端になっているのです。
実は「ヒトの指差しジェスチャーを理解する」って、動物行動学的にはとても特別なことなんだって。
ごくごく最近まで、「他者の伝達意図を自発的に理解する能力」は、人間だけに備わったものと考えられていたのです。
認知心理学を学んでいた作者の学生時代、担当教授は乳幼児の発達の研究をしていました。
乳幼児の認知能力、社会技能を検証するために、「指差しジェスチャーの理解」を元にチンパンジーとの比較実験を行っていた教授に、
ぼくんちのイヌ、それ出来ますよ!と何の気なしに話した作者。
それは高度な知能を持つチンパンジーでさえ、長期間の専門教育無くしては身につけられないスキル。
教授ははじめ、一笑に付しました。
しかし、作者とその愛犬が、二つのカップとご褒美を使って実演する姿を見て、教授は我を忘れるほど興奮したのです。
そして実家の寒いガレージで愛犬と始めたささやかな実験から、作者の研究が始まったのでした。
種の違う動物同士であるヒトとイヌは、どうしてこんなに理解しあえるのか?
どうして一緒にいると嬉しいのか?
それについての作者の考察から、検証は愛犬から保護施設に暮らすイヌたち、そしてキツネ、オオカミ、ディンゴ、果てはアフリカにすむチンパンジーの仲間のボノボにまで及びます。
イヌはイヌと過ごすより人間といるほうを好むが、オオカミはたとえ人間に育てられても、同種の仲間といるほうを好むといいます。
オーストラリアの野生犬ディンゴや、イヌの種族の中でも原始的なニューギニアシンギングドッグでさえも、オオカミよりもずっとよく人間のジェスチャーを理解するのです。
作者は、イヌは人間と共に生きるように数万年かけて自ら進化したのだという説に辿り着きます。
その思索と検証の旅路の章は、ロードムービー的な面白さにも溢れているよ!
遠い遠い昔に思いを馳せるんだ…
何万年も昔、原始オオカミは、オオカミとして野生のまま群れで生きることを選んだ一派と、人間と共にイヌとして生きる道を選んだ一派に分かれた。
そのときイヌになることを選んだ彼らは、人間に約束してくれたんだよ。
寝床とごはんをくれたら、ずっと一緒にいてあげるって。
そのイヌになった一派の、ずっとずっとずーっと後の子孫の一匹があっとで、まだ約束は生きている。
だからこんなにもくっついてぬくぬくで幸せなんだねぇ。
この本を読んで、そんな悠久の約束を再確認できました。
イヌとヒトとの約束は、やがてお互いの
脳内ホルモンに影響しあうまでになった。
威嚇以外でヒトと目と目を見つめあうのは、動物の中ではイヌだけ。
見つめあってお互いに幸せホルモンがギュンギュン出るのもイヌだけ。
ヒトのジェスチャーを理解し、表情を読み取り、一緒に何かをすることを喜ぶ。
そういう動物にイヌは自らなってくれたのではないかという説を、最新の研究に基づいて、この本はわかりやすく説明してくれます。
そして、遺伝子解析による犬種別の違いの有無(賢さ、攻撃性、友好度など)についても説明してくれます。これがとても意外な話だったので、ぜひご一読を!
三万年の約束が、ここでも遂行されています。
ずっと一緒にいてくれるなら、たとえ寝床の大半を占領されても、腕枕の腕が痺れて感覚が無くなってきてもかまわない!!