ティンブクトゥ
ポール・オースター
ティンブクトゥは魂の行き着くところ。
どこかの砂漠の真ん中にあって、ニューヨークからもボルチモアからもポーランドからも遠い。
いままで旅した、どの町からも遠いところにある。
何度もウィリーが話してくれたから、ミスター・ボーンズは知っていた。
ウィリーが行くのなら、自分も行きたかった。
でも、ティンブクトゥは、犬も入れるのだろうか。
もし入れてもらえなかったら?
アル中で変わり者でろくでなしのヘボ詩人(しかも誇大妄想気味)ウィリーと、飼い犬ミスター・ボーンズ。
いつも一緒に放浪して、いろいろなところへ旅もした。
結局飼い主は一文無しの浮浪者になってしまい。
二人とも雨に濡れ、空腹で、衰弱したウィリーは道端で倒れ、息を引きとる。
ひとりぼっちになってしまったミスター・ボーンズは、元気だったころの飼い主との旅や出会った人、ふたりでした様々なことや、飼い主が聞かせてくれたたくさんの話を思い出しながら、何とかひとりで生きていこうとします。
[…そして優しい人に救われ、温かな家族の一員として迎えられ、ミスター・ボーンズはいつまでも幸せに暮らしました]
という結末を期待される向きにはお勧めできないけど…。
飼い犬の空腹を満たしてやることも出来ず、ちゃんと世話してやることも出来ず、それどころか自分自身の面倒もみられなかったウィリー。
まともに考えれば飼い主失格もいいところで、こんな男に飼われたのがミスター・ボーンズのそもそもの不運だった。と言えるのでしょう。
けど、飼い犬の五感に驚異して、三ヶ月半も費やして大まじめに[匂いのシンフォニー]を一緒に作ったり。
24時間一緒にいて、二人で歩いて旅をして、いつも一緒に眠ったり。
人間の生活の規範からはズレてるけど、ウィリーとミスター・ボーンズの生活って、犬にとってはすごい幸せなのかもしれない。
[匂いのシンフォニー]、アッシュも喜びそうだよ。
これは[お話]だから、ウィリーもミスター・ボーンズも実在はしないし、犬がこんな風にものを考えるかどうか、ほんとのところはわからない。
だけど、ラスト近くの砂浜の夢のシーンを読んで、犬も入れるティンブクトゥが本当にあればいい、と思った。
100年経ったら、あたしもダンナチンもアッシュも確実にこの世からいなくなってるけど、ロネッツの“ビーマイベイビー”が流れるビーチみたいな場所が、そのときあたしたちのためにもあるといいな、と。
好みは分かれるところでしょうが、この本はあたしはハッピーエンドだと思うのです。
でもね、やっぱり犬を残して飼い主が先に死んじゃだめだよ。
飼い犬が亡くなっても何とか人間は生きていけるけど、飼い主を亡くした犬は・・・。
近所でよく見かけたホームレスのおっちゃんと、おっちゃんと一緒に歩いてた犬を思い出した。
最近見ないけど、どうしてるんだろう。