サーカスの犬
リュドヴィック・ルーボディ
マスターっていうのは特別な動物のこと。
ショーを理解し、拍手を浴びることが好きで、自分自身が芸を楽しめる。
サーカスのために生まれてきたような、天才的な動物のこと。
バルトラングっていうのは流れ者のろくでなしって意味。
サーカスのテントの設営をする、下働きのおっさんたちのこと。
過酷な肉体労働と勤務明けの一杯の繰り返しで毎日を過ごすおっさんたちの飯場に、灰色の薄汚れた野良犬が迷い込んできた。
腫れた虫歯を引っこ抜いてもらって恩義を感じたのか?
なんでもない野良犬だったシェパは、いつしか飯場に居着いてしまいます。
気立てのよいシェパはおっさんたちと仲良くなり、かわいがられて、飯場のアイドルになる。
そんなシェパが「マスター」かもしれない・・・。
しっかりもので頭が切れる、バルトラングのボスのマルコ。
ちょっと足りないけど、お人よしのベルジュ。
インテリでアル中のフランシス、ひねくれ者のダルタニアン。
語り手の、気のいいグラン。
おっさんたちは、シェパをスターにして自分たちのサーカスを作ろう!と、パリの片隅で夢を見始めます。
痛い過去があったり現実に疲れきってたりして、夢なんてとっくに捨ててしまったようなおっさんたちなんだけど、シェパに出会って、ちょっとづつ本気になっていく。
周囲もシェパに会って、おっさんたちの夢に力を貸すようになる。
ちょっと懐かしいような悲しいような、そいでもってポカポカするような。
くたびれたおっさんたちの物語にこんなにキュンとこようとは!!
シェパはもちろんかわいい。
けど、それと同じくらいか、それ以上にかわいい、けなげなおっさんたちよ・・・。
世間擦れして斜に構えてるかと思えば、変なところで中学生男子のように純情なおっさんたち。
みんなの行きつけの飲み屋のおかみさんをはじめとする、おっさんたちを支える女性たちも、とても魅力的です。
そして、みんなの夢と希望を一身に背負って、ついにシェパは至高の芸「ぐにゃぐにゃ」をものにします。
調教師なら誰もが憧れる、犬の芸の最高峰、それが「ぐにゃぐにゃ」!!
見たい!!シェパの「ぐにゃぐにゃ」見たくてたまりません!
このキュートで切ない、泣き笑いに溢れたお話を、ぜひとも映画化して欲しいのですけど、「ぐにゃぐにゃ」を映像化するのは難しいだろうなぁ・・・。
シトロエンの廃工場もママンローズの店も今はもう無くて、あのときの仲間たちはみんなばらばらになってしまったけど、でっかいガラスの犬小屋を建ててもらったシェパは、パリの隅っこで眠っているのです。