犬の伊勢参り (平凡社新書)仁科 邦男
あっとちゃんあっとちゃん、あたしゃ病で旅には出られない。
お前さん、あたしの代わりにお伊勢さんにお参りして、有難いお札をもらってきちゃくれないか。
かくして名犬あっとちゃんは、「伊勢参り犬・あっとちゃん」と書かれた木札(裏面には住所)と、路銀の入った小袋を首っ玉に括り付け、いざ出発するのであった!
同じ方角へ向かう旅人に次の村まで送ってもらったり、伊勢参りの旅人たちにくっついたりしながら、一路お伊勢さんを目指すのです。
行く先々で町の人がごはんや一晩の宿を与えてくれます。
ときには「犬の身でお伊勢参りとは大したもんだ!」と、お金を寄進してくれる人もいます。
そんな寄進で首に下げた袋が重たくなると、親切な誰かが金子に両替して軽量化してくれることもあります。
何週間かに及ぶ長旅の末、お伊勢さんに到着すると、濡れないように油紙に包んだお札を、首に結わえつけてもらいます。
そして帰路につく!
道々貰ったお金は結構な額になりました!
帰り道では、村から村へ、申し送り状とともに丁重に送り届けられ、無事帰宅したときには飼い主もびっくり!
そんなことが、ほんの100年前に実際にありました。
しかも、一匹二匹のミラクルではなく、しょっちゅうあったらしい!
犬がひとりでお伊勢さんにお参りしてお札をもらってくるなんて夢物語みたいでしょ?
でも、日本のあちこちに、文書や文献が残っているのです。
犬を次の村へ届ける際の送り状や、犬の路銀を両替したときの両替屋の記録、目撃した人の日記、実際に使われた首に下げてた木札、そして伊勢神宮に伝わる神官の記録も。
今に伝わるそれらの文献を紐解きながら、はるばるお伊勢さん目指して旅したたくさんの犬に思いを馳せる。
おおらかであったかくて、ロマンティック!!
明治維新以降の現代に至る歴史の中で、犬の一人旅は夢物語になってしまったけど、想像すると胸がキュンキュンするでござる!
しかし…100年前だったとしても、あっとちゃんに一人旅はとてもさせられん。
あっとちゃんの代わりにわたしがお札をいただきに参ります。
「お伊勢さん行くなら赤福も忘れずに買ってきてね!」